アルヴィースの言葉
『アルヴィースの言葉[1]』(アルヴィースのことば、古ノルド語: Alvíssmál)とは、古ノルド語詩である。一般に『古エッダ』の一篇に数えられ、北欧神話の原典資料の一つとなっている。『アルヴィースの歌[2]』とも。
アース神のトールとドヴェルグのアルヴィースとの間の知恵比べが歌われている。その中で、言葉の言いかえ(ヘイティ(英語版)も参照)が、「各部族(人間、アース神、等)での呼ばれ方」として列挙される(スールル)。
詩形は歌謡律[3]。11世紀の成立と考えられている[3]。第20スタンザ(「風」の言いかえ)が『詩語法』第74段落に、第30スタンザ(「夜」の言いかえ)が第78段落に、それぞれ引用されている[4]。
内容
(第1-8スタンザ):トールの元をアルヴィースと名乗るドヴェルグが訪れる。トールの娘(一般にスルーズと解される)を花嫁にもらう約束があり、それを果たしに来たのだと。トールは反対する。そして知恵比べを持ち掛け、自身の質問に全て答えられたら娘を渡すと告げる。
(第9-34スタンザ):トールの出題とアルヴィースの解答という形で、「地」や「天」といった言葉の言いかえが列挙される。#言葉の表参照。
(第35スタンザ):トールはアルヴィースの知識を褒め称えるものの、同時に夜が明けたことを告げる。アルヴィースのようなドヴェルグは日光を浴びると石になるとされており[5]、トールはそれを利用してアルヴィースを罠にかけていたのだった。
言葉の表
- 各セルの1行目は谷口訳の音写、2行目は谷口訳の語彙解説、3行目はNeckel版(谷口訳の底本。ただし本記事で参照したのは電子テキスト版)の古ノルド語表記である。左上の数字は、詩の中で登場する順番を意味する(行ごと)。
- 行見出し・列見出し等に併記した古ノルド語表記も、Neckel版のものである。
- これら古ノルド語表記は、曲用を考慮せず、参照した原文のまま(主格単数形に戻す等の操作を行わずに)掲載した。
- スタンザ番号は谷口訳に従った。
スタンザ | 元の語 | 言いかえ | ||||||||||||
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人間たち mǫnnom | アース神たち ásom | ヴァンル神たち vanir | 巨人たち iotnar | 妖精たち(小人たち)[6] álfar | 天の神々 upregin | 神々 goðom | 小人たち dvergar | 冥府(ヘル)で helio | アース神の子ら ása synir | より高い神々 ginregin | 人々 halir | スットゥングの子ら Suttungs synir | ||
09-10 | 大地 iorð | 1イェルズ 大地 iorð | 2フォルド 原 fold | 3ヴェグ 道 vega | 4イーグレーン 緑なるもの ígron | 5グローアンディ 緑なすもの gróandi | 6アウル 砂地 aur | - | - | - | - | - | - | - |
11-12 | 天 himinn | 1ヒミン 天 himinn | - | 3ヴィンドオヴニル 風を織るもの vindofni | 4ウップヘイム 上の国 uppheim | 5ファグラレーヴ 美しい屋根 fagraræfr | - | 2フリュールニル 星のまきちらされたるもの hlýmir | 6ドリュープ サル 水の滴る館 driúpan sal | - | - | - | - | - |
13-14 | 月 máni | 1マーニ 月 máni | - | - | 4スキュンディ 韋駄天 scyndi | 6アールタラ 時測り ártala | - | 2ミュリン 欠けるもの hlýmir | 5スキン 光 sein | 3フヴェルファンダ フヴェール 回転する輪 hverfanda hvél | - | - | - | -- |
15-16 | 太陽 sól | 1ソール 太陽 sól | - | - | 4エイグロー 永遠に輝くもの eygló | 5ファグラヴェール 輝く輪 fagrahvél | - | 2スンナ 南の輝き sunna | 3ドゥヴァリンス レイカ 小人をしいたげるもの Dvalins leica | - | 6アルスキール 全く明るいもの alscír | - | - | - |
17-18 | 雲 scý | 1スキュー 雲 scý | - | 3ヴィンドフロト 風に漂うもの vindflot | 4ウールヴァーン 霧雨のぞみ úrván | 5ヴェズルメギン 天候の力 veðrmegin | - | 2スクールヴァーン 驟雨のぞみ scúrván | - | 6ヒャールム フリス 隠し兜 hiálm huliz | - | - | - | - |
19-20 | 風 vindr | 1ヴィンド 風 vindr | - | - | 4エーピル 叫ぶもの opi | 5デュンファリ 騒然と駆けゆくもの dynfara | - | 2ヴァーヴズ 揺れるもの váfuðr | - | 6フヴィーズズ 疾風(はやて) hviðuð | - | 3グネギューズ いななくもの gneggiuð | - | - |
21-22 | 凪 logn | 1ログン 凪 logn | - | 3ヴィンドスロート 無風 vindslot | 4オヴフリュー 鬱陶しい空気 ofhlý | 5ダグセヴィ 日をやわらげるもの dagsefa | - | 2レーギ 鎮まり lægi | 6ダグス ヴェラ 日のとどまり dags vero | - | - | - | - | - |
23-24 | 海 marr | 1セー 海 sær | - | 3ヴァーグ 波立つ潮 vág | 4アールヘイム 鰻の故郷 álheim | 5ラーガスタヴ 飲み代? lagastaf | - | 2シーレーギャ あまねくみなぎる潮 sílægia | 6デュープルマル 深海 diúpan mar | - | - | - | - | - |
25-26 | 火 eldr | 1エルド 火 eldr | 2フニ 焔 funi | 3ヴァグ ゆらめくもの vag | 4フレキ 貪欲なるもの frecan | - | - | - | 5フォルブランニル 燃えるもの forbrenni | 6フレズズ はやきもの hrǫðuð | - | - | - | - |
27-28 | 森 viðr | 1ヴィズ 森 viðr | - | 6ヴェンド 藪 vǫnd | 4エルディ 火の糧 eldi | 5ファグルリミ 美しい枝 fagrlima | - | 2ヴァラル ファクス 原野の鬣 vallar fax | - | - | - | - | 3フリーズサング 山腹の海藻 hlíðþang | - |
29-30 | 夜 nótt | 1ノート 夜 nótt | - | - | 4オーリョース 無光 óliós | 5スヴェヴンガマン 眠りの喜び svefngaman | - | 2ニョール 暗闇 niól | 6ドラウムニョル 夢の織手 draumniorun | - | - | 3グリーマ 隠すもの grímo | - | - |
31-32 | 種 sáð | 1ビュグ 大麦 bygg | - | 3ヴェクスト 生長 vaxt | 4エーティ 食物 æti | 5ラガスタヴ 穀物 lagastaf | - | 2バル 穀物、ことに大麦 barr | - | 6フニピン しなやかなもの hnipinn | - | - | - | - |
33-34 | 麦酒 ǫl | 1エール 麦酒 ǫl | 2ビョール ビール biórr | 3ヴェイグ 酔わす飲物 veig | 4フレイナレグ 生(き)の飲物 hreinalǫg | - | - | - | - | 5ミョズ 蜜酒 mioð | - | - | - | 6スンブル 酒宴 sumbl |
脚注
参考文献
- V・G・ネッケル、H・クーン他編『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口幸男訳、新潮社、1973年、ISBN 4-10-313701-0
- Neckel, Gustav (Ed.). (1983). Edda: Die Lieder des Codex Regius nebst verwandten Denkmälern I: Text. (Rev. Hans Kuhn, 5th edition). Heidelberg: Winter. Titus: Text Collection: Edda.
- ジョン・マッキネル(伊藤盡訳)「原典資料」、『ユリイカ』第39巻第12号、2007年10月、 pp.107-120
- 「スノリ『エッダ』「詩語法」訳注」谷口幸男訳、『広島大学文学部紀要 特輯号』第43巻3号(1983年12月)
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