岩崎清春

岩崎 清春（いわさき せいしゅん[1][注 1]、1844年 - 1912年）は明治前期の東京で初めて洋傘骨の大量生産を始めた実業家[3]であり、東京小石川区の区会議員。田中鉱山の副社長を務めた田中長一郎は娘婿に当たる。

経歴

1844年（弘化元年10月）[4]東京府士族として生まれる。小石川区の白山御殿町に工場を建て、洋傘骨製造及び金属延板製造業を営んだ。江戸時代末期から輸入されていた洋傘が庶民にも普及し始めたのは明治元年頃のこと。当初の洋傘、蝙蝠傘はハイカラな舶来品として扱われており、明治10年代に入り国産の洋傘製造が始まる。清春は小石川区に工場を建てると、横浜のイギリス人商館より原材料を買い入れて1878年（明治11年）2月[5][6]より洋傘の溝骨製造を開始した[注 2]。1890（明治23）年に東京上野で開催された第3回内国勧業博覧会では洋傘溝骨製造機械を出品し二等有功賞を受賞している[8]。

1890年（明治23年）3月に洋傘骨製造機の、1892年（明治25年）1月には洋傘骨弾性回復機の特許を取得[注 3]。明治二十七八年戦役では砲兵工廠の嘱託で信管製造も担った[10]。

1895年（明治28年）12月より1907年（明治40年）11月まで小石川区会議員を4期務める[11]。同期議員に鳩山和夫。その妻で広く教育界で活動していた春子とも交流があったとされる[12]。東京では他にも複数の洋傘骨製造業者があったが、蒸気機械を用いて製造していたのは1902（明治35）年ごろの時点においても岩崎工場のみであった[2][注 4]。1903（明治36）年に大阪で開催された第5回内国勧業博覧会では洋傘骨を出品し再び二等賞を受賞。1907年には小林電鍍合資会社の設立に伴い二千円を出資[注 5]。同年、四女のタカ（1886年生）が田中長一郎（1881年生）[注 6]に嫁ぎ、翌年その長男・長三が誕生する。洋傘骨製造の先駆けとなった清春の工場だったが、1910年（明治43年）に廃業[7]。その跡地には御殿町尋常小学校が建設されることとなった[注 7]。1912年（大正元年）岩崎清春没[15]。工学会会員[16]。日本機械学会賛助会員。日本海員掖済会特別会員[17]。東京鉄工業組合委員[18]。自宅は東京市小石川区竹早町十七番地[19][20][注 8]。

妻は同じ小石川区に住む石川安五郎の長女・キム子（1856年生）[21][注 9]。三女・みき（1884年生）の夫は福岡の出身で婿養子として岩崎家に入った岩崎武治（1873年生）。東京帝国大学工科大学の機械工学科を1898年に卒業[23]し、1904年ごろ三井物産へ入ると機械部[24]へ配属。1907年11月から1911年10月まで小石川区会議員も務めた[注 10]。1912年（明治45年）石油輸入事業を起こし一時独立。1918年茂木合名会社に入るが同社倒産のためライジングサン石油（昭和シェル）に移り技術課長を務めた[26]。武治とみきの間に長男・正亮[注 11]、二男・兼亮[注 12]がいる。

脚注

注釈

  1. ^ "きよはる"と表記されている資料もある[2]。
  2. ^ 清春死没の38年後に書かれた書籍[7]には1888-1889（明治21-22）年頃に開業との記述もあるが、清春存命時の資料の多くが明治10年または11年となっている為、そちらの方が信憑性が高いと考えられる。
  3. ^ 前者は特許第865号、後者は第2303号[9]。清春はこれ以前の1884年（明治17年）にも特許を取得している[2]。
  4. ^ 工場の住所は小石川区白山御殿町四八。職工60名（男性58、女性2）[5]。
  5. ^ 1907年（明治40年）9月に電鍍請負い及び洋傘骨製造販売を目的とし設立。出資金二千円は唯一の無限責任社員である小林十太夫に次ぐ[13]。
  6. ^ 八幡製鉄所以前、国内鉄生産量の過半数を占めた釜石鉱山田中製鉄所を経営する田中長兵衛の長男。
  7. ^ 清春が白山御殿町に持っていた土地はおよそ千百坪。交渉の結果、売値は坪当たり20円。別に建物移転料として坪当たり10円、付属機械等移転費用1,000円で話がまとまる。千百坪一括での買上げではなかったため清春側は残地も買ってほしいと要請したが、区の予算上実現しなかった[14]。敷地の地番を変更した上で1912年（明治45年）4月に小学校開校。建物は1937年に焼失し令和6年現在は小石川消防署に小学校跡を示す案内板が立っている。
  8. ^ 1896年（明治29年）同所に移転。前住所は小石川区久堅町七番地[17]。清春の没後、竹早町十七番地には三菱商事の取締役・加藤恭平が入った。
  9. ^ 大正三美人として知られた林きむ子のように本名"きん"の女性がきむ子を名乗る場合があり、同じ住所に居住しているとされる岩崎ぎん[22]（"きん"と"ぎん"など似た文字を間違えて記載している例も多々ある）はキム子と同一人物の可能性がある。
  10. ^ １期3年を務めた後、2期目は1年で辞任している[25]。
  11. ^ 1914年（大正3年）生まれ。東京高校[27]より東京帝大船舶工学科に進み、1937年卒業。三菱日本重工業の横浜造船所で鉄構設計部長を務めた[28]。1960年に実用新案「分割水門扉捲揚装置」が登録される[29]。水門鉄管協会技術委員。丸島水門製作所専務。妻・淑子。
  12. ^ 1917年（大正6年）生まれ。1933年3月に関東学院を卒業[30]した後、東京物理学校へ入学。

出典

  1. ^ 木村元雄『内外商工情報』（1903年）Shoko Joho Office、1903年5月、171頁。NDLJP:803475/96。 
  2. ^ a b c 粕川信親 著、守屋物四郎 訂『工芸宝典：新式実験』目黒書店、1902年、435-436頁。NDLJP:854127/250。 
  3. ^ 『明治前期産業発達史資料』 勧業博覧会資料 59、明治文献資料刊行会、1973年、38-39頁。NDLJP:12000397/78。 
  4. ^ 『東京商工録』東洋出版協会、1911年4月、117頁。NDLJP:901313/67。 
  5. ^ a b 織田純一郎 編『東京明覧』集英堂、1904年3月、92頁。NDLJP:764246/208。 
  6. ^ 東京興信所 編『商工信用録』（9版）、1904年、P.19。NDLJP:803686/18。 
  7. ^ a b 『日本洋傘歴史と名鑑』今村良之祐、1950年10月、23-24頁。NDLJP:1701793/36。 
  8. ^ 『明治前期産業発達史資料』 勧業博覧会資料 151、明治文献資料刊行会、1976年、第七部 1頁。NDLJP:12000521/142。 
  9. ^ 『帝国ニ於ケル特許発明ノ発達一斑』農商務省特許局、1903年、227頁。NDLJP:845492/121。 
  10. ^ 飯山正秀 編『成功偉人名家列伝：一名・信用公録』 第1編、国鏡社、1906年、517頁。NDLJP:778186/344。 
  11. ^ 『小石川区史』東京市小石川区、1935年、287-293頁。NDLJP:1875569/203。 
  12. ^ 東京都立図書館 “渡辺刀水旧蔵諸家書簡文庫目録“ 「渡6492」鳩山春子より岩崎清春への書簡。 2023年12月4日閲覧。
  13. ^ 大蔵省印刷局 編『官報』第7286号、付録 p.1、1907年10月10日。NDLJP:2950632/34。 
  14. ^ 『小石川区会史』 下巻、小石川区、1939年、19-20頁。NDLJP:1277818/14。 
  15. ^ 『日本機械学会60年史』日本機械学会、1958年、55頁。NDLJP:2485599/74。 
  16. ^ 『工学会誌』15(180)、工学会、1896年12月、850頁。NDLJP:1528188/53。 
  17. ^ a b 『内外海事要録』（9版）内外海事学会、1895年12月、33頁。NDLJP:1516914/18。 
  18. ^ 「第六回機械工業従事者懇親会」『読売新聞』1895年12月4日、朝刊6頁（広告）。
  19. ^ 工学会 編『工学会誌』(15) 180号、1896年12月、頁外（850頁相当）。NDLJP:1528188/53。 
  20. ^ “風俗画報 第353号 臨時増刊 小石川区之部 其三” (PDF). 江戸東京研究センター. 東陽堂. p. 4/39 (1906年11月). 2023年12月5日閲覧。
  21. ^ 婦女通信社 編『大日本婦人録』1908年、47頁。NDLJP:779870/86。 
  22. ^ 『東京市養育院報告』（第29・30回／明治33・34年度）東京市養育院、1911年、157頁。NDLJP:798824/201。 
  23. ^ 『日本現今人名辞典』（訂正2版）日本現今人名辞典発行所、1901年、イの11頁。NDLJP:782772/34。 
  24. ^ 『実業の世界』 8巻、13号、実業之世界社、1911年7月1日、36頁。NDLJP:10292822/32。 
  25. ^ 『小石川区史』東京市小石川区、1935年、296-298頁。NDLJP:1875569/205。 
  26. ^ 帝国秘密探偵社 編『大衆人事録』（12版）、1937年、神奈川 13頁。NDLJP:3049247/502。 
  27. ^ 東京高等学校 編『東京高等学校一覧』（第11〈昭和9年4月至10年3月〉）、1934年、153頁。NDLJP:1466111/84。 
  28. ^ 『工学研究者名簿』（1961年版）日本学術会議第5部、1961年、319頁。NDLJP:2480024/166。 
  29. ^ 『三菱日本重工技報』（1 (1)）三菱日本重工業、1960年9月、99頁。NDLJP:1744625/52。 
  30. ^ 『橄欖會會員名簿』（皇紀2600年版）關東學院橄欖會、1940年5月、32頁。NDLJP:1899487/18。