拡大体における双対基底

数学線型代数学における双対基底の概念は、体のトレースを用いることで有限次拡大 L/K へと応用することが出来る。ただし、その体のトレースによる TrL/K(xy) が、K 上の非退化二次形式を与えることが必要となる。これはその拡大体が分離拡大である時に満たされる。したがって、K完全体のとき、とくに K が有限体や標数ゼロである時に、自動的に満たされる。

双対基底(dual basis)は多項式基底正規基底のような具体的な基底ではない[疑問点 – ノート]。むしろそれは、計算のための第二の基底を用いる方法を提供する概念である。

L/K を有限次分離拡大とする。

B 1 = { α 0 , α 1 , , α m 1 } {\displaystyle B_{1}=\{\alpha _{0},\alpha _{1},\ldots ,\alpha _{m-1}\}}

LK-基底とすると、

Tr L / K ( α i γ j ) = { 0 ( i j ) 1 ( i = j ) {\displaystyle \operatorname {Tr} _{L/K}(\alpha _{i}\gamma _{j})={\begin{cases}0&(i\neq j)\\1&(i=j)\end{cases}}}

を満たす基底

B 2 = { γ 0 , γ 1 , , γ m 1 } {\displaystyle B_{2}=\{\gamma _{0},\gamma _{1},\ldots ,\gamma _{m-1}\}}

が存在する。これをトレース TrL/K に関する B1 の双対基底と言う。

L有限体 GF(qm)、K をGF(q) とすると、体の拡大 L/K の元のトレースは、

Tr L / K ( β ) = σ Gal ( L / K ) β σ = i = 0 m 1 β q i {\displaystyle \operatorname {Tr} _{L/K}(\beta )=\sum _{\sigma \in \operatorname {Gal} (L/K)}\!\!\!\beta ^{\sigma }=\sum _{i=0}^{m-1}\beta ^{q^{i}}}

と計算される。

L = K (α) を分離拡大とし、f をαの最小多項式、

f ( X ) X α = b 0 + b 1 X + + b n 1 X n 1 {\displaystyle {\frac {f(X)}{X-\alpha }}=b_{0}+b_{1}X+\dotsb +b_{n-1}X^{n-1}}

とする。このとき 1, α, ..., αn−1 と双対な基底は

b 0 f ( α ) , , b n 1 f ( α ) {\displaystyle {\frac {b_{0}}{f'(\alpha )}},\dots ,{\frac {b_{n-1}}{f'(\alpha )}}}

である。

双対基底を用いることは、基底の変換公式を用いて陽に基底を変換するよりも、異なる基底を用いる手法を簡単に結びつける方法を提供する。さらに、双対基底をもつならば、元の基底のある元から双対基底への変換は、乗法的単位元(通常は 1)の乗算によって達成される。

参考文献

  • Neukirch, J., 『代数的整数論』、足立恒雄 監修、梅垣敦紀 訳、丸善出版、ISBN 978-4-621-06287-6。