JR西日本273系電車

JR西日本273系電車
273系電車
(2024年4月)
基本情報
運用者 西日本旅客鉄道
製造所 近畿車輛[1]
製造年 2023年 - 2024年
製造数 44両
運用開始 2024年4月6日[2]
投入先 やくも
主要諸元
編成 4両編成(0.5Ⅿ方式で全車電動車)
軌間 1,067 mm
電気方式 直流1,500 V
架空電車線方式
最高運転速度 120 km/h
設計最高速度 120 km/h
起動加速度 1.6km/h/s[3]
減速度(常用) 最大3.9km/h/s[3]
減速度(非常) 4.4km/h/s[3]
編成定員 169名
車両定員 クモロハ272形:29名
クモハ273形:50名
モハ272形:56名
モハ273形:58名
自重 クモロハ272形:44.3 t
クモハ273形:43.4 t
モハ272形:41.8 t
モハ273形:41.1 t
全長 21,300 mm
全幅 2,850 mm
全高 先頭車:4,090 mm
中間車:3,890 mm
車体 アルミ製ダブルスキン構造[3]
台車 動力台車:WDT72・WDT72A
付随台車:WTR241A
主電動機 WMT110
主電動機出力 220kW
駆動方式 WN継手平行カルダン式[3]
歯車比 14:78 (5.57)[3]
制御方式 フルSiC素子適用2レベル電圧型[3]VVVFインバータ制御
制御装置 WPC19 (1C2M)[3]
制動装置 回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ方式
(応荷重,遅れ込め制御,直通予備,救援,耐雪,抑速ブレーキ,駐車ブレーキ付き)[3]
保安装置 ATS-SWATS-P
備考 特記なき限り出典は[4]による
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273系電車(273けいでんしゃ)は、西日本旅客鉄道(JR西日本)の直流特急形電車である。

概要

特急「やくも」に用いられる381系の置き換えを目的として導入された[4]車両で、4両編成11本計44両が製造された[5]。制御付自然振り子方式を採用した振り子式車両であり[4]、JR西日本の振り子式電車としては283系以来約30年ぶりとなる新形式である。

2023年10月に最初の編成が落成して以降順次試運転が行われ[6]、2024年4月6日から「やくも」で運用されている[2]

構造

基本構造は271系をベースとしており、これに曲線の多い区間を走行するための変更を加えている[4]。全車両が近畿車輛で製造され[1]、デザインは川西康之と近畿車輛デザイン室が監修している[4]

走行装置

271系と同様に片側の台車を動台車、もう片側の台車を従台車とした0.5M方式を採用しており、全車両が電動車である[4]

振り子装置はJR西日本・鉄道総合技術研究所川崎車両が開発した「車上型」を採用している[4]。これは車上のジャイロセンサーが現在位置を検出し、マップデータと照合して制御を行うもので、従来の地上子を使用した方式における誤差の問題を解消することで乗り物酔いを軽減している(乗り物酔い評価指標が381系比で最大23%改善[7])。また、キハ187系などの従来車では3段階だった制御装置の出力を本形式では無段階とし、細かな制御を可能としている[7]

なお、本形式の発表以前となる2017年には「やくも」が走行する伯備線四国旅客鉄道(JR四国)の8600系を使用した空気バネストローク式車体傾斜装置の試験を行っている[8]が、同線では空気の消費量が多く、タンク容量に限界があることから採用を断念した経緯がある[7]

外装・車体

外装色は鬱金色黄金色赤銅色などを取り入れた「やくもブロンズ」を基調とし[4]、大山の朝日や宍道湖の夕日といった沿線の風景を表現している[9]

ロゴマークは「やくも」の由来でもある枕詞「八雲立つ」からとったもので、381系時代のトレインマークの意匠を踏まえた雲のデザインとなっている[9]岡山駅松江駅など同列車が経由する主要駅ホームには、このロゴマークをかたどった駅名標やベンチも設置された[10]

4両編成のみを導入することから分割・併合運用も考慮しており、前頭部には貫通扉が設けられている[4]。客用扉は1・2号車が片側1か所、3・4号車が片側2か所である[11]

  • ロゴマーク
    ロゴマーク

車内

1号車は半室構造のグリーン車と普通車指定席のセミコンパートメント、2 - 4号車は全車普通車である[12]。コンパートメント以外はいずれも回転リクライニングシートとし、座面が動くチルト機構をJR西日本の在来線特急形車両で初めて採用したほか、曲線の多い線形に対応するためバケット形状を改良した[11]。また全席にコンセントを備える[4]

グリーン車の座席は1+2配列(1列のみ1人掛け側が荷物スペース[11])で、各座席にフットレストを装備する[4]。モケットには、明るい黄色をベースに積石亀甲の模様を配している[4]

セミコンパートメントは簡単な仕切りとテーブル付きのボックスシートで、4人掛け・2人掛けを各2組設置している[11]。座面はフルフラットとすることが可能で、座席間に荷物スペースがある[11]。なお、4人掛けは3人以上での利用時、2人掛けは2人での利用時に限り発売される[12]

2 - 4号車の普通車は2+2配列を基本としつつ、グリーン車同様に各車両1列の片側を荷物スペースとし、3号車ではさらに2列分を1席のみとして3人分の車椅子スペースを設けている[11]。セミコンパートメントを含む普通車のモケットは沿線の山々をイメージした青色が基調となり、神事に用いられるの葉模様を加えている[4]

トイレ洗面所は4号車を除く各車両にあり、3号車のものは多機能トイレとしている[11]。また3号車にはフリースペース・ユーティリティスペース・多目的室も設置しており、ユーティリティスペースは荷物運送での利用も想定されている[4][11]。全車に監視カメラを装備し、車内ではフリーWi-Fiのサービスが提供される[4]

車内チャイムには米子市松江市出身のメンバーからなるバンド「Official髭男dism」の楽曲が採用されており、上り列車では『Pretender』、下り列車では『I LOVE...』が流れる[13]

  • グリーン車
    グリーン車
  • セミコンパートメント
    セミコンパートメント
  • 普通車
    普通車
  • フリースペース
    フリースペース

編成

出雲市駅方先頭車を1号車とする4両編成[12]で、先述の通り全車が電動車となっている[4]

岡山
号車 1(5) 2(6) 3(7) 4(8)
形式 クモロハ272形
(M'sc)
モハ273形
(M1)
モハ272形
(M'1)
クモハ273形
(Mc)
自重 44.3 t 41.1 t 41.8 t 43.4 t
定員 29 58 32 50

編成表

2024年4月1日現在[14]
編成
番号
岡山
落成日
クモロハ
272形
モハ
273形
モハ
272形
クモハ
273形
Y1 1 101 101 1 2023年10月25日
(近畿車輛)
Y2 2 102 102 2
Y3 3 103 103 3 2024年1月17日
(近畿車輛)
Y4 4 104 104 4
Y5 5 105 105 5 2024年2月28日
(近畿車輛)
Y6 6 106 106 6

運用

後藤総合車両所出雲支所に4両編成11本(Y1 ‐ 11編成)が配置され、2024年4月6日に特急「やくも」として15往復中6往復で営業運転を開始し、同年6月15日からは全列車が本形式による運転となった。

沿革

  • 2020年(令和2年)
    • 10月30日:JR西日本グループ中期経営計画2022見直しの中で、特急「やくも」への新型車両投入の意向が示される[15]
  • 2022年(令和4年)
    • 2月16日:JR西日本の社長会見で、本系列の形式名が発表される。車体形状のイメージが示された一方、外装は黒塗りの状態となっていた[16]
    • 10月20日:外装デザインが発表される[9]
  • 2023年(令和5年)
    • 10月17日:近畿車輛で報道公開が行われる[1]
    • 10月25日:第1弾となるY1編成とY2編成が近畿車輛を出場し、試運転を開始[6]
  • 2024年(令和6年)
  • 伯備線内で試運転を行っていた273系Y2編成(2023年12月 根雨駅 - 黒坂駅間)
    伯備線内で試運転を行っていた273系Y2編成(2023年12月 根雨駅 - 黒坂駅間)
  • 大阪駅で展示された273系Y3編成(2024年2月 大阪駅)
    大阪駅で展示された273系Y3編成(2024年2月 大阪駅

脚注

[脚注の使い方]

注釈

出典

  1. ^ a b c 「ブロンズ色の振子車両、「やくも」用新型車両273系お披露目…!」『鉄道ホビダス』ネコ・パブリッシング、2023年10月17日。2024年6月4日閲覧。「製造は全車近畿車両となります。」
  2. ^ a b 「JR西日本,特急“やくも”への273系投入計画を発表 〜6月15日以降は全15往復を273系に統一〜」『railf.jp』交通新聞社、2024年2月17日。2024年6月4日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i 『鉄道ファン2024年8月号 Vol.64』交友社、2024年6月20日、44-51頁。 
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 『ジェイ・トレイン Vol.92』イカロス出版、2024年1月1日、106-110頁。 
  5. ^ 「273系Y11編成が登場」『railf.jp』交通新聞社、2024年5月24日。2024年6月24日閲覧。
  6. ^ a b 「273系Y1編成・Y2編成が近畿車輛から出場」『railf.jp』交通新聞社、2023年10月25日。2024年6月4日閲覧。
  7. ^ a b c “カーブ克服して速度アップ「振り子式車両」の進化 新技術搭載の「やくも」は従来車とどう違う?”. p. 6 (2023年11月24日). 2024年6月4日閲覧。
  8. ^ “JR四国8600系が伯備線で試運転”. railf.jp (交通新聞社). (2017年7月13日). https://railf.jp/news/2017/07/14/154000.html 2024年6月4日閲覧。 
  9. ^ a b c “J特急「やくも」ブロンズ色に 再来年春から運行 JR西”. 産経新聞 (産経新聞社). (2022年10月20日). https://www.sankei.com/article/20221020-SHRIMZFAL5O7PIGG6TQLL5FOLA/ 2024年6月4日閲覧。 
  10. ^ 「「やくも」デザインの駅名標・ベンチが登場」『railf.jp』交通新聞社、2024年4月16日。2024年6月4日閲覧。
  11. ^ a b c d e f g h “新型やくも”. 西日本旅客鉄道. 2024年6月4日閲覧。
  12. ^ a b c 『JR時刻表 2024年4月号』交通新聞社、2024年3月、978頁。 
  13. ^ “新型やくも車内チャイムに「Official髭男dism」” (2024年2月9日). 2024年4月9日閲覧。
  14. ^ ジェー・アール・アール編『JR電車編成表』2024夏 ジェー・アール・アール、交通新聞社、2024年、p.194。ISBN 978-4-330-02824-8。
  15. ^ “JR西、中期経営計画見直し「やくも」新製など車両増備”. レイルラボ (クロゴ). (2020年11月2日). https://raillab.jp/news/article/23291 [信頼性要検証]
  16. ^ “新型やくも 24年春導入 JR西 揺れ抑制新方式 座席間隔1.07倍に”. 山陰中央新報デジタル. (2022年2月17日). https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/165371 2024年6月4日閲覧。 
  17. ^ “JR西日本「やくも」新型車両273系、大阪駅で見学会・見学イベント”. マイナビニュース. (2024年1月16日). https://news.mynavi.jp/article/20240116-2863715/ 2024年6月4日閲覧。 
  18. ^ “JR西日本「やくも」新型車両273系の試乗会、車内は和やかな雰囲気”. マイナビニュース (マイナビ). (2023年3月24日). https://news.mynavi.jp/article/20240324-273yakumo/ 2024年4月6日閲覧。 
  19. ^ “273系「やくも」が運転を開始”. 鉄道ホビダス (ネコ・パブリッシング). (2024年4月9日). https://rail.hobidas.com/rmnews/496947/ 2024年6月4日閲覧。 

関連項目

外部リンク

ウィキメディア・コモンズには、JR西日本273系電車に関連するカテゴリがあります。
  • 新型やくも:JRおでかけネット - 西日本旅客鉄道

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